プロローグ

「君が帰るまで僕はここにいよう」


それがあの子が旅立つ合図だった


僕らが永遠に重ならない存在なのはこの世界の誰でも知っていた。

善と悪、コインの表と裏のように


日中に存在する君と、夜に存在する僕は重ならない

重なれないのだ


僕は詩を書くことが好きだ

そして、この夜に光り輝く星々も好きだ

星にはそれぞれ名前がある

シリウスカノープス、アークツルス

他にも無数の星たちがあり、名前があったりなかったりする

そんな彼らの中に1人だけ地上に届いてしまった紛い物がいる

 


それが僕だ

 


ここに来て何年経ったのだろうか、僕自身自分が何者なのだろうか、それはわからない

だが、地上にいる彼らと同じような見た目をしているし言語も理解できる

そして文化も理解するのは容易かった


未だ長い夜は尻尾を見せなかった

 


私はいつも同じ歌を歌った、変わるのは周りの環境だけだからだ

無理に自分を合わせる事はとうにやめていた


私には名前がある


ソレイユ


母から貰った大事な名前だ

母は私に太陽のように暖かく永遠に輝くようにとこの名前をつけた


だから無数に降り注ぐ光が照らすこの丘が好きだ


しかし今日はいつもより人が少ない、そんなふうに思っていた

そろそろ休もうと思いケースへギターをしまいポケットにあった紙にその日を綴ろうとしたその時

私は異変に気づいた


人々はその日を暗日と呼んだ


私は、しばらくその丘を歩いて戸惑った

帰り道が分からないし何も見えない

暗闇に慣れていない私は何かにつまづいて手をついた

インクの匂い、ボロボロの紙の感触

 


"何かが居る"

 


咄嗟に身を引いた


すると、


「暗闇に慣れていないなら無理に動くんじゃない」


透き通った優しい声が耳を掠めた


「えっ」


私は止まった


「目を閉じてゆっくり息を吸う、そして目を開けたら大丈夫」


私は暗闇を暗闇で塞いだ

そして大きく吸った

 


インクの匂いが私を満たしていた